【イラク日報】このイラク日報がすごい!!

2018年4月16日 防衛省は自衛隊イラク派遣の際の活動報告(日報)を公開しました。
この記事を書いている17日現在、435日分(約一万5千ページ)もの日報が公開されました。
防衛省該当URL:http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/04/16b.html

公開された日報は下記朝日新聞のホームページ内で公開されています。
引用元朝日新聞該当ページURL:https://www.asahi.com/articles/ASL4J669JL4JUEHF016.html

ざっと流し読みしてみた所この日報は只の業務報告だけというわけではなく、当時派遣された幹部自衛官がイラク自治体や他国の将官達とどのように交流していたのかを知ることができるよい資料でもあることがわかりました。マスコミ報道では今回の日報公開はあくまで政権の不祥事として紹介されていますが、この記事では取り敢えず小難しいことは置いておいて当時の幹部自衛官達のウィットに富んだ日報を紹介していきます。

【注意事項】
日時は時系列順ではないです。また、注釈が必要な箇所はその都度補足しています。
黒塗の箇所は原文そのままにしています。
一部文章を見やすくするため編集しています。
原文を確認したい場合は該当のURLを添付していますのでそちらを確認して下さい。

日報日付:2006_01_18
バグダット日誌(1月18日)

送別会(番外編)

会の中で、カザフスタンLO(管理人注釈:Liaison Officer 連絡幹部)と私が話していると、着任間もない英国少佐が話しかけてきた。それぞれ国の派遣部隊規模、活動地域を聞いてきた。私が答え、カザフが答えた
英国人少佐は(そんなに少ないの?)という表情をした。カザフは特に英米からそんな風に言われるが、気に入らない。
(凡例 「英」:英国少佐、「カ」:カザフスタンLO、「日」:日本人LO)

日:「カザフスタンがなぜ、○名しかバグダットにいないか知ってるか?」
英:「知らない」
日:「日本人はここに5人いるけど、彼は一人でも俺たち5人分と同じくらい強いんだよ!」
カ:(私にウィンクしながら)「そうでもないけど・・・」
英:「クートにいるカザフの部隊は強いから、少なくていいわけだ!」
日:「そうそう。彼らは強いんだよ」
英:「だから米軍は、あんなにたくさん必要なんだ!」(口に人指し指を当てて「シーッ!」というポーズ)
一同大笑い。英米関係も色々複雑のようだ。

英軍らしい皮肉も含んだジョークですねw
読んでいて非常に面白かったです

日報日付:2006_01_26
バグダット日誌(1月26日)

インシャアッラー!(神の思し召しのままに!)

    は、MNC-I(管理人注:Multi-National Corps – Iraq 在イラク多国籍軍)情報部の幕僚として勤務している。ナイト・シフトであるため夜7時から朝7時までの勤務時間だ。着任早々、グループ研究のリーダーを任されてしまい多忙な日々を送っている。     曰く、「他国のスタッフは、オフィスに来る時間が遅く、朝3時頃には居なくなってしまう。夜12時頃に夜食を食べに行き、2時間ぐらい帰ってこない。」とやや困惑している。日本人は時間に厳密なため、どうしても時間前には、オフィスに着き、次に申し送るまでオフィスを離れられない。
    は、MNC-I情報部のデイ・シフトで勤務している。彼のワーキング・グループの中で海軍マークは彼のみであり、迫撃砲やら形態ロケットの分析課題を与えられ四苦八苦している。また、雨による泥化した道に妨害され、シャワールームまでたどり着けなかったそうである。
・私、    も砂嵐のため延期となったMNC-I副司令官のサマーワ訪問の調整に行ったが、時間通りになっても調整相手が来ない。遅れてミーティングに参加したわりに自分勝手なことを言う。こちらは、会議場所を確認するためにも30分も前から待ってるのに・・・。ここでは、日本の様に時間通りには行かないことが多い。
・5人それぞれが日本の代表として「いい仕事」ができるように努力しているが、時には「インシャアッラー」の気持ちを持つことも大切かもしれない。

日報日付:2006_01_29
バスラ日誌(1月29日)
昨日、    室長と群警備中隊の    をJHF(ヘリポート)で出迎えた。20~30分おきにヘリは来るのだが、肝心の2人はなかなか来ない。タリルでヘリの不具合が生じたため遅れが生じたようだが結局予定より5時間も遅れ2150にバスラに到着した。おみくじによくある「待ち人来ず。」の心境だったが、    室長と    の方が大変だろうと思い待つのもLOの仕事だと思った。
昼休みにタバコをすっていたらJ2スタッフのNAVYの将校が、「君タバコ吸うんだ。体に害を与えるからやめた方が良いよ。僕は、体のために吸っていないよ。」とタバコの箱に書いてある警告文のようなことを言われた。

昔から軍隊ではたばこは手放せないものだと聞いたことありますが現代だと違うのかな?それとも米軍だから?

日報日付:2006_02_02
バグダット日誌(2月2日)

    はサムライだ!

現在ナイト・シフト(夜7時~朝7時までの勤務)でMNC-I情報部で勤務している    は、各国の幕僚と伍して情報分析にあたっている。
 第5次連絡班がバグダットに到着して早々、    は命題研究チームのリーダーに指名され、2週間後にチームとしての研究結果を情報分析チーフ(米軍少佐)に発表しなければならなくなった。命題研究チーム・リーダーは通常バグダットでの勤務になれてから実施するらしいのだが、今回の研究テーマが難しく、だれもチーム・リーダーをやりたがらなかった。そこで情報部分析チーフが「     やってみないか?」というと、    は「イエス、サー」と元気に答えた。この時、    は情報部分析チーフが何を言っているのか聞き取れず、「つい」言ってしまったそうである。
 かくして、    の試練の日々は始まった。マケドニア、ラトビア、アルバニア等のチームメンバーを率いて毎晩ミーティングを持ち、侃々諤々の議論を戦わせながら命題研究をすすめた。先日述べたように、時間に厳格なのは日本だけで他の国はかなりの余裕を持って行動する。このため、なかなか研究作業はすすまない。ミーティングをやっても言葉の壁、仕事のやり方の違い等で随分苦労していた。また慣れないナイト・シフトの生活のため疲れも大分溜まっているようだった。 
 昨日、夜8時から研究成果発表があり、見学に行くとデイ・ナイトスタッフが全員集まってきた。    は、約1時間にわたり研究成果を発表したが、発表後に沢山の質疑応答があり、今回の発表の成否が一瞬にみてとれた。
 発表後、    とともに命題を研究したマケドニアの鬼瓦のような顔の少佐が、私のところに来て「    は良い仕事をする。    はサムライだ!」と報告してくれた。
 また、情報部分析チーフに日本スタッフの仕事ぶりを聞いたところ「大変研究熱心で、礼儀正しい。几帳面で時間に遅れることがない。素晴らしい仕事をしてくれている。」とのことであった。多少、社交辞令が含まれているとはいえ、大変嬉しく思った。
 各国のスタッフがいやがる仕事を進んで(?)実施し、誠実に粘り強く仕事する姿がマケドニアの鬼瓦少佐をして「サムライ」と言わせたのかもしれない。サムライ魂を見せてくれた    は、今日から少しだけ枕を高くして眠れると思う。


サムライ

日報日付:2006_04_21
バグダット日誌(4月21日)

あ!本物だ。

バグダットもサマータイムになり、美しい夜明けとともに朝食を終え、通常であればコンテナに直帰する。猛暑になる直前の一時の過ごしやすい瞬間である。
 ある朝、調整のため朝食帰りにパレス付近に立ち寄ることになった。そこには、司令官のケイシー大将と最先任上級曹長の    の宿舎が堂々鎮座しており、パレスとともに朝日に映えて大変美しい。その宿舎から100~200mの所を歩いていると、数人の駆け足の実施者が出てきた。その集団は私の方に向かって走ってきた。後ろから車が来ているが、その駆け足集団を抜くこともなく、ゆっくりと走っている。(なにか様子がおかしい。)その車を見るとハザードを点滅させながら、その集団の直後を追走しているようだ。駆け足の集団は前に2人、真ん中に1人、その後ろに2人で、どうも真ん中の人を取り囲む様にして走っている。(やっぱり様子がおかしい。)ようやく視認できるほどの距離に達したとき、中央で走っている緑のTシャツを来ている人の顔に見覚えがあった。その人がこちらに向かって軽く手を上げた瞬間、その人がケイシー大将であることが確認できた。(あ!本物だ。生ケイシーだ!)
Good morning Sir!
「Good morning」
あわてた私は、カミカミになった英語で挨拶をすると、気軽に挨拶を返し走り去っていった。初めてお目にかかる生のケイシー大将に挨拶ができ、この場所に勤務できることの有り難さを噛みしめるのであった。(    

上記の日報に登場するケイシー大将は本名 ジョージ・ウィリアム・ケイシー・ジュニア(George William Casey, Jr)
日本の在日米軍将校の息子として宮城県仙台市に生まれ、2004年から2007年まで在イラク多国籍軍の総司令官を務めた方です。 最終階級は大将

日報日付:2006_05_11
バスラ日誌(5月11日)
サマワにいる英軍LOの    は、これもなぜだか知らないが、けん玉がすごくうまい。私も子供の頃やっていたイメージで、「私は日本人だから、けん玉はうまいですよ。」とやってみたが、全く乗せることができず屈辱の時を過ごした。この時、居住区が同じで顔見知りの    (J6)も調整のためサマワにいたが、私が下手くそなのを見て「ガッカリしたと言われてしまった」雪辱を果たしたかったが、    は、明日には帰るそうだ。残念。でもご苦労様でした。(    


けん玉ができる英軍士官・・・

日報日付:2006_02_9
バグダット日誌(2月9日)

コアリション(有志連合)

多国籍軍コアリション・オペレーション部の事務所に朝、顔を出した時に先ずすることは握手である。モンゴルの大佐とは、まずハグ(抱き合う)をして朝の挨拶を実施する。これらの挨拶は、三々五々事務所に入ってきた順に、所在する連絡幹部全員と実施するのが習慣となっている。私は朝の挨拶をする際には、多少忙しくても手を止めて立ち上がり、しっかり目を見て挨拶するようにしている。私の大好きな朝の一瞬だ。
 ここコアリション・オペレーション部の雰囲気は大変良い。お互いが尊敬し合い、助け合っている。バグダットという多少緊張感のある場所での勤務がそうさせているのかもしれないが、言語・宗教・文化・肌の色が違っても兄弟の絆を感じることができる。
 昨日、コアリション・オペレーション部の副部長    が3時にピザ・ハットのピザを差し入れしてくれた。皆でワイワイ食していると、    が「このピザもアメリカで初めて出店された時は、すぐに潰れると思ったが、今や世界中にあるよ。」と感慨深くいう。するとカザフスタンの中佐が、「カザフスタンもこのピザの店はたくさんありますよ。世界は一つになろうとしているのかもしれませんね。」と答えた。
 これからも世界は、様々な試練に立ち向かう時、コアリションを組んで解決する方策を模索するであろう。それぞれの「国家を守る」という同じ志を持つ者が、共通の目標に向かって事に挑もうとする「戦友意識」は、「世界が一つになることを現実にする。」と思わせるほど、利害関係のない純粋なものであると感じている(    

カザフスタン中佐の「世界は一つになろうとしているのかもしれませんね」という言葉には30国以上の軍隊で構成された在イラク多国籍軍が築き上げた「戦友」としての絆の深さを感じられます。

以上が日報からの引用です。
今回文章を確認していて驚いたのは文章の内容ももちろんですが幹部自衛官の語彙力がものすごく豊かだと思ったことでした。
また、他国の関係者たちとの真面目なだけではなく、おちゃめな一面も垣間見れて非常に好感をもてる文章だと感じました。

一万ページ以上の文量とかなりのボリュームがありますので今後も面白そうな日報があれば紹介していきたいです。

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